札幌地方裁判所 昭和62年(わ)1249号 判決 1987年12月24日
本籍
北海道静内郡静内町字春立一三八番地
住居
同町字春立一二二番地
漁業
大澤金信
昭和二年一月一日生
本店の所在地
北海道静内郡静内町字春立一二二番地
有限会社大澤漁業部
代表者代表取締役 大澤金信
右被告人大澤金信に対する所得税法違反、法人税法違反、右被告人有限会社大澤漁業部に対する法人税法違反各被告事件について、当裁判所は、検察官工藤倫出席のうえ審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人大澤金信を懲役一〇月及び罰金五〇〇万円に、被告人有限会社大澤漁業部を罰金三〇〇万円に処する。
被告人大澤金信において右罰金を完納することができないときは金一万円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。
被告人大澤金信に対し、この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人有限会社大澤漁業部(以下「被告会社」という。)は、肩書地に本店を置き、鮭鱒定置網漁業、魚加工及び販売業を営んでいるものであり、被告人大澤金信は、同社の代表取締役としてその業務全般を統括するとともに自らも同肩書地において同種業務を経営しているものであるが
第一 被告人大澤金信は、自己の所得税を免れようと企て、自己の前記業務のうち魚加工及び販売業務の一部が従業員の斉木敏の個人的事業であるかのように仮装するなどして、自己の売上の一部を除外するなどの不正の方法により所得を秘匿したうえ、
一 昭和五八年三月二六日、北海道浦河郡浦河町常盤町二八番地所在の浦河税務署において、同税務署長に対し、同五七年分の総所得金額が二七九六万一三五五円であり、これに対する所得税額が九二八万五四〇〇円であるにもかかわらず、所得金額が八五〇万二九九九円であり、既に源泉徴収された税額二万三六四〇円の還付を受けることになる旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により正規の所得税額とその申告税額との差額九三〇万九〇〇〇円を免れ、
二 昭和五九年三月一三日、前記浦河税務署において、同税務署長に対し、同五八年分の総所得金額が三一八四万一二一〇円であり、これに対する所得税額が一一一五万七一〇〇円であるにもかかわらず、所得金額が二一三五万七四六六円であり、納付すべき所得税額は五三一万一〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限である同五九年三月一五日を徒過させ、もって、不正の行為により正規の所得税額とその申告税額との差額五七五万九一〇〇円を免れ、
三 昭和六〇年三月一一日、前記浦河税務署において、同税務署長に対し、同五九年分の総所得金額が三一一三万四五四二円であり、これに対する所得税額が九五五万九五〇〇円であるにもかかわらず、所得金額が一六一五万四八六五円であり、納付すべき所得税額は一八七万一〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限である同六〇年三月一五日を徒過させ、もって、不正の行為により正規の所得税額とその申告税額との差額七六八万九四〇〇円を免れ、
第二 被告人大澤金信は、被告会社の業務に関し、同社の法人税を免れようと企て、同社の右業務のうち魚加工及び販売業務の一部が、同社の役員でありかつ同社の従業員である斉木敏の個人的事業であるかのように仮装するなどして、売上の一部を除外する等の不正の方法により所得を秘匿したうえ、
一 昭和五八年二月二八日、前記浦河税務署において、同税務署長に対し、同五七年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度の所得金額が一一六六万三三七一円であり、これに対する法人税額が三九三万八四〇〇円であるにもかかわらず、所得金額が三九三万二五九三円の欠損であり、納付すべき法人税額はない旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限である同五八年二月二八日を徒過させ、もって、不正の行為により同会社の右事業年度の正規の法人税額とその申告税額との差額三九三万八四〇〇円を免れ、
二 昭和五九年二月二九日、前記浦河税務署において、同税務署長に対し、同五八年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度の所得金額が一八〇〇万四一九二円であり、これに対する法人税額が六六〇万一六〇〇円であるにもかかわらず、所得金額が三八七万九二九九円であり、納付すべき法人税額は一一六万三七〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限である同五九年二月二九日を徒過させ、もって、不正の行為により同会社の右事業年度の正規の法人税額とその申告税額との差額五四三万七九〇〇円を免れ、
三 昭和六〇年二月二七日、前記浦河税務署において、同税務署長に対し、同五九年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度の所得金額が一五八九万三二八三円であり、これに対する法人税額が五八九万七六〇〇円であるにもかかわらず、所得金額が二八五万五七〇一円であり、納付すべき法人税額は八八万五〇〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのま法定納期限である同六〇年二月二八日を徒過させ、もって、不正の行為により同会社の右事業年度の正規の法人税額とその申告税額との差額五〇一万二六〇〇円を免れ
たものである。
(証拠の標目)
判示事実全部について
一 被告人兼被告会社代表取締役大澤金信の当公判廷における供述
一 被告人大澤金信の検察官に対する昭和六二年一〇月一四日付(一七枚綴りのもの)、同月一六日付、同月一七日付、同月二一日付(二通)、同月二三日付各供述調書
一 寺尾幸正(二通)、木村長寿、中井英光、富田昌幸、大竹敬一、下倉孝、菊地信夫、蜂屋芳雄、大澤榮子(三通)、斉木敏(昭和六二年一〇月一六日付一〇枚綴りのもの、同月二〇日付二通、同月二三日付二通、同月二六日付一五枚綴りのもの)の検察官に対する各供述調書
一 山田忠雄の大蔵事務官に対する質問てん末書四通
判示冒頭の事実について
一 被告人大澤金信の検察官に対する昭和六二年一〇月一四日付供述調書(一二枚綴りのもの)
一 札幌法務局静内出張所登記官作成の商業登記簿謄本
判示第一の事実全部について
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書(検察官証拠請求番号甲37号証)
一 大蔵事務官作成の「売上調査書」(検察官証拠請求番号甲39号証)、「売上原価調査書」、「荷造運賃調査書」(同甲41号証)、「水道光熱費調査書」(同甲42号証)、「旅費交通費調査書」(同甲43号証)、「通信費調査書」(同甲44号証)、「接待交際費調査書」(同甲45号証)、「修繕費調査書」(同甲46号証)、「福利厚生費調査書」、「給与賃金調査書」、「施設使用料調査書」、「支払手数料調査書」(同甲50号証)、「研究費調査書」(同甲51号証)、「雑費調査書」(同甲52号証)、「事業―者控除調査書」、「青色申告控除額調査書」、「損失金額調査書」、「利子所得調査書」、―動産所得調査書」、「定期預金調査書」、「その他の預金調査書」と題する各書面
判示第二の事実全部について
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書(検察官証拠請求番号甲60号証)
一 大蔵事務官作成の「売上調査書」(検察官証拠請求番号甲61号証)、「期首棚卸高調査書」、「仕入調査書」、「資材費調査書」、「期末棚卸高調査書」、「給料手当調査書」、「厚生費調査書」、「旅費交通費調査書」(同甲68号証)、「通信費調査書」(同甲69号証)、「水道光熱費調査書」(同甲70号証)、「修繕費調査書」(同甲71号証)、「消耗品費調査書」、「交際接待費調査書」(同甲73号証)、「支払手数料調査書」(同甲74号証)、「減価償却費調査書」、「荷造運賃調査書」(同甲76号証)、「燃料費調査書」、「使用料調査書」、「研究費調査書」(同甲79号証)、「寄付金調査書」、「雑費調査書」(同甲81号証)、「雑収入調査書」、「役員賞与の損金不算入額調査書」、「事業税認定損調査書」、「繰越欠損控除調査書」と題する各書面
判示第一の一、二及び第二の一、二の各事実について
一 竹下道雄、西條誠宏こと西條富美男、菅野匡秀こと菅野留三の検察官に対する各供述調書
判示第一の三及び第二の三の各事実について
一 平松梅次、堀田慶一、信田暁、柴田正夫の検察官に対する各供述調書
(法令の適用)
一 被告人大澤金信につき、判示第一の一ないし三の各所為はいずれも所得税法二三八条一項に、判示第二の一ないし三の各所為はいずれも法人税法一五九条一項に該当するので、所定刑中いずれも懲役刑及び罰金刑を選択することとし、以上は刑法四五条前段の併合罪なので、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第一の一の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により判示各罪所定の罰金額も合算し、その刑期及び金額の範囲内で同被告人を懲役一〇月及び罰金五〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金一万円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予することとする。
二 被告会社につき、被告人大澤金信の判示第二の一ないし三の各所為は被告会社の業務に関してなされたものであるから、いずれも法人税法一六四条一項により被告会社に対し同法一五九条一項所定の罰金刑を科することとし、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により各罪所定の罰金額を合算した金額の範囲内で被告会社を罰金三〇〇万円に処することとする。
(量刑の理由)
本件は、自己が代表取締役をしている被告会社とともに個人においても鮭鱒などの定置網漁業を営んでいた被告人大澤金信が、網の流失、破損や不漁時に備える目的で、自ら若しくは被告会社の業務に関し、判示のとおりの不正な方法によって、三年間にわたり合計三七〇〇万円余りの所得税・法人税を免れたという事案であるところ、ほ脱税額は高額で、ほ脱率も平均約八〇パーセントと高率であるのみならず、脱税の手段・方法も、被告人大澤自身が経理事務担当者に具体的指示を与えるなどして、いくら・筋子等の売上の一部を被告人及び被告会社とは別個に同社の従業員である斉木敏が個人として行ったものであるように仮装して除外したり、事業と無関係な経費を自己の経費として申告するなどする一方、脱税による利益を仮名預金等により隠匿していたものであって、態様が巧妙、悪質であることに加え、被告人大澤は、これまでにも不正な経理を行い、昭和五四年、同五七年に税務調査を受け、高額の重加算税、延滞税を徴収されたことがあるにもかかわらずその直後から再び本件脱税行為に着手していること、被告人は、静内町議会議員、静内漁業協同組合長等の公職にあったにもかかわらず本件を犯し、町民等の信頼を裏切ったことなどを併せ考慮すると、その刑事責任は軽視し難いものといわなければならない。
しかしながら、他面、被告人大澤は、不安定な漁業経営を少しでも安定させ、従業員らの生活の安定をも目論んで本件を敢行したもので、その動機には酌むべき点もないではないこと、被告人大澤は、本件を深く反省し、ほ脱にかかる本税はもちろん延滞税、重加算税も既に全額納付済みであり、経理体制も改めており、また、本件が報道され、公職も辞任に追い込まれるなど、相当の社会的制裁を受けていること、その他被告人のこれまでの社会的な業績、年齢、健康状態等被告人のために有利に斟酌すべき事情も認められる。
これら諸般の事情を総合考慮し、この種事犯に対する量刑の実情をも勘案してみると、被告人大澤については、懲役刑及び罰金刑の選択はやむを得ないところであるが、懲役刑の執行は猶予するのが相当であり、また、被告会社については、主文掲記の罰金刑に処するのが相当であると思料される。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 龍岡資晃 裁判官 若原正樹 裁判官 金子武志)